AFTER STORY 11月号
2021.11.01
TEDxSapporoでは、イベントや動画を通してスピーカーの素晴らしいアイデアを広げて来ました。そんな、スピーカーの現在の活躍の様子をお伝えするのが「AFTER STORY」です。
AFTER STORYについての詳しい説明は前の記事をご覧ください。
「AFTER STORY 第2弾」3人目は、TEDxSapporo 2016年に登壇された、北海道大学 高等教員推進機構 新渡戸カレッジ 繁富 香織さんです。
まずは、繁富 香織さんの紹介をさせていただきます。
繁富さんは滝川生まれで札幌市立開成高校を卒業後、室蘭工業大学機械システム科に進学。宇宙で展開できるソーラーパネルの開発を目指し、自然界でのモデルとしてラワン蕗の葉の展開と折りたたみ研究を行っていました。
米国オレゴン工科大学留学時は、医療の授業を受けたことをきっかけに、工学の知識を活かし医療に貢献したいと考え北海道大学の修士課程では医療機器の開発研究を、英国オックスフォード大学の博士課程では、折り紙の折りたたみパターンを利用した医療器具「折り紙ステントグラフト」の開発を行いました。
以来、折り紙工学博士としてさまざまな研究を重ね帰国後は東京大学で、マイクロ・ナノ 加工技術を用いて細胞を折り紙のように折り立体的に培養できる「細胞折り紙」技術を開 発し現在は北海道大学で、細胞折り紙技術を用いて再生医療の応用を目指して研究を進めている方です。
ここで、当時のTEDxSapporoの映像を共にご覧ください。
TEDxSapporo 2016 「折り紙が織りなす未来」
Question
最近興味を持って取り組んでいることを教えてください。
Answer
興味をもって取り組んでいるというより、とにかくなんでも否定的にならずポジティブに受け入れ、1つ1つ前向きに取り組むように心掛けています。
現在「新渡戸カレッジ」という北大の中の特別クラスを担当し、コミュニケーション能力 や創造力、発想力などを教えているのですが、学生から学ぶことも多いです。そのため教えるe立場としてもなるべく頭を柔軟にして新しいことを取り入れたいと思っています。
そういった新たな人との出会いや普段の生活の中で、自分が気づけなかったことなど、小さな発見が常にあるので、その発見を自分の中に落とし込み何かに生かせないかということを常に考えています。
Question
海外の研究者たちとの繋がりによる影響や効果について教えてください。
Answer
多くの人と繋がりを持つとその時々で海外と日本でトレンドが違うことがあり、海外と日本の違いで日本が劣っているのかどうかなどの評価をすることができます。また、私は12月に開催される国際学会のオーガナイズの1人になっています。そういった時に留学していた時や東京にいた時のお友達に声をかけて講演してもらうので、人との繋がりをとてもありがたく感じます。
今現在は、細胞を三次元で培養ための足場のようなものが必要で3Dプリンターを使っています。ですが TEDに登壇していたアンドリュー・ ペリングさんは、周りから見たらゴミだと思われるようなものから何かを作り出すような形で、りんごで細胞を三次元で培養する実験や、アスパラで細胞を培養することで軸索がうまく伸びていくといったような実験をしていて、自分にはない視点だなと思い興味を持ちました。私が彼に初めて会った時は、細胞の弾性や粘性を調べてそれを音楽にしていました。そのイメージがあったのにTEDではりんごやアスパラを用いた細胞培養のトークをしていて、時代は動いているなと感じたとともに、自然界にあるものから着想を得て、自然界の物を使って培養してみようという新しい発想を面白いと思いました。
出会った時に気付くこともありますが、10年ぐらいコンタクトを取っていない状態で、TEDやTEDx、他の講演などを通してその人達が今やっている活動を知ると、そこから新しい発想力を得ることができます。それを授業で取り入れることや、他の大学に講演に行くときに紹介することができます。色んな人と話して、それを違う人のバックグラウドに置き換えて考えると新たな発想が生まれ、今の問題とどんどんリンクしていきます。
海外の人たちと話していると、自分が思っている常識とはまた違う常識があることも分かるので、同じ研究をしていても全然違う視点を持っているというのは新たな発見かなと思います。
Question
TEDxSapporoで語っていない、折り紙分野の研究について教えてください。
Answer
私以外にも折り紙の分野で有名なたち先生たちがいます。TEDxSapporo2016に登壇した際に、トークの中でうさぎが折られる動画があったと思います。その彼が新たな折り紙というのをやっており、折り紙を重ね合わせると強度を増したりできるという構造を新たに作っています。
私は、オックスフォード時代の友人と個人用のシェルターを開発しました。
新しいアイデアとして、硬くもなるけど折りたためてでもフィット感もあるみたいなものであれば、避難所で引いておけるものなどの応用できるのではないか、介護に活かせるのではないかと考えています。そこで、提灯のような形だと全体がまるいため一つの面を平らにするという折り紙を作りました。
避難所で大きなテントを張ることは難しいが、個人用シェルターであれば気軽に広げることができ、個人の空間として色々な場面で使用することができます。また、ロックをかけることにより立たせることも出来ます。
例えば、子どもやお年寄りが電気を遮って睡眠をとりたいと思ったときや、子どもの母乳を飲ませたいとき。また、これから平らな部分にセンサーを付けてお年寄りをモニタリングすることや、個人用シェルターに紙の電気デバイスを用いて介護に応用できるようにするといったことも考えています。
Question
繁富さんは現在バイオ折り紙工学の分野で活躍されていますが今後も世界中の人々に発信するために折り紙工学という視点で今後の夢や展望を教えてください。
Answer
折り紙にはまだまだいろいろな可能性があると思っているので、自分の専門であるマイクロナノテクノロジー技術や、他の研究分野の先生たちとも共同し、さらに新しい技術につなげていきたいです。
現在は、情報工学分野の先生と共同研究をし、細胞折紙技術において、「細胞が折り畳みやすい形状があるか」を実験と計算シミュレーションをすることで求めようとしています。
細胞の形状と分化・機能とは深い関わりがあることが知られています。そのため、細胞の好みに合わせて形状を設計し、仮に幹細胞の形状を人間が自在に制御できるようになれば、細胞の分化を制御して狙った臓器を組織させることが可能となると考えています。
このような技術で再生医療に大きなインパクトを与えていきたいと考えています。
おわりに
インタビューで繁富さんは「興味をもって取り組んでいるというより心掛けているのは、とにかくなんでも否定的にならずポジティブに受け入れ、1つ1つ前向きに取り組むように心掛けています」とおっしゃっていました。同じ研究をしている方々の新しいアイデアや新たな視点を発見しポジティブに前向きに生活する姿はとてもかっこよかったです。また、学生や新たに出会う方々から新しい発見やアイデアも見つかるそうです。
他にも新しい開発として個人用シェルターを作製していることを知りました。今後のスケジュールとしては12月に国際学会のオーガナイズの1人なっているそうです。これからの繁富さんの新しいアイデアや活躍も楽しみです。
繁富さんの最近の研究や論文はこちらからご覧ください。
https://researchmap.jp/KaoriKuriShigetomi
AFTER STORYでは、これからもTEDxSapporoに登壇してくださった方の現在を追いかけていきます。