AFTER STORY 10月号
2021.10.03
TEDxSapporoでは、イベントや動画を通してスピーカーの素晴らしいアイデアを広げて来ました。そんな、スピーカーの現在の活躍の様子をお伝えするのが「AFTER STORY」です。
AFTER STORYについての詳しい説明は前の記事をご覧ください。
「AFTER STORY 第2弾」2人目は、TEDxSapporo 2015年に登壇された、プロダクトデザイナー 伊藤 千織さんです。
まずは、伊藤 千織さんの紹介をさせていただきます。
伊藤さんは札幌生まれ。美術教師の両親の影響で、ものを作ることが大好きな子どもに育つ。1990年女子美術大学産業デザイン科インテリアコース卒。設計事務所勤務を経て、1992年から2年間政府給費生としてデンマークに留学していました。
帰国後は札幌を拠点にフリーランスとして活動を始め、1999年に伊藤千織デザイン事務所を設立しました。
北海道内の木工メーカーとの家具や日用品などの商品づくりを中心に、chiori designとしてオリジナル製品の開発や、公共建築へのインテリア提案など、バターナイフからパブリックスペースまで幅広くデザインを手がけています。
2000年、北海道教育大学大学院教育学研究科修了(美術教育)し、デザインの仕事の傍ら、北海学園大学・東海大学での非常勤講師、一般向けデザインワークショップなど、デザインの楽しさや役割を広く伝える活動にも力を注いでいる方です。
ここで、当時のTEDxSapporoの映像を共にご覧ください。
TEDxSapporo 2015「デザイン視力を強くしよう」
Question
TEDxSapporo 登壇後の活動について教えてください。
Answer
新たに始めた活動としては、緊急事態宣言の発令により「自分たちにできることはないだろうか?」という思いではじめたコロナ対策を考える実証実験「しくみ」プロジェクトです。4人のコアメンバーではじめ、札幌市民交流プラザ2階にある4人掛けボックス席に飛沫感染予防のビニールシートを吊し、背もたれにも「距離が縮まらないように」あえて違和感のある立体的なプロダクトを設置しました。
しかし、座面設置型のパネルがいつの間にか規定の位置から動かされたことや、壊れたこともあったが、その都に度連絡がきて、また次の手を考え試行錯誤を繰り返しました。また、札幌市民交流プラザでの活動を見た方から赤れんがテラス2階のフリースペース「アトリウムテラス」のコロナ対策についての依頼もきました。そこで、インパクトのある岩を模したオブジェを置き、床にも「必ずマスクを着用」「会話は禁止」などのサインを設置しました。
コロナ渦によって今までは注目していなかった管理者がみな悩んでいる、「コロナ渦におけるパブリックスペースをどうしたらよいか」という課題をデザインという課題解決のツールによって解決していけたらよいと感じています。
そんな中、これから新たにチャレンジしたいと思っていることがあります。田舎で色々な実験をしたいという考えです。それは、「足りないものと持っているものを交換する。」という考えです。
自分ができることと、人ができることにはそれぞれ違いがあります。足りない部分をお互いに補い合えば、両者に利点があり、どちらも幸せな気持ちになれます。
例えば、トマトを育てているが料理をする暇もなく忙しい人と、料理をする時間はあるけど材料がない人がいます。この2人の足りないものと持っているものを交換することで、忙しく料理ができない人にとっては料理を作ってもらえることができ、もう1人は材料としてトマトを貰うことができます。そうすることでトマトを作った方も料理を作った方も幸せを分け合うことが出来ます。他にも、「電気を自家発電する」というアイデアも考えています。
Question
最近どのようにデザイン視力を活用されていますか?
Answer
家具デザインの製作は最近していないので、またやりたいとは思っています。ですが今はユポのような特徴がある素材を生かすことができる小物やプロダクトを作りたい思いが強いです。
実は、昔ユポのコンペに出したきっかけは木を使った家具デザインの製作をしていた際に、子供時代紙工作が好きだったため、紙を使って何かできないかと思ったのが始まりだったんです。
私は、装飾は見る人を心地よくさせる作用があると感じています。震災の際、みなが寒々とした気持ちになっていましたが、装飾を見てふと気持ちが明るくなったのです。そういったきっかけで自分も装飾的なものを作りはじめました。
また、大人になると工作などをして、「完成した!」という達成感を得る機会もなくなると思います。そこで、作る時の楽しさを感じてもらうために、誰でも楽しんで製作できるような適切な難易度と適切な感動を与えられる装飾を目指しています。
次に、私がユポの他に現在注目している素材は、「鏡」です。鏡といっても、普通のガラス製のものではなくアクリル製の鏡です。災害の際に、友達の家の鏡が割れたのをきっかけに弱い壁にも簡単に付けられて割れる心配のない安全な鏡があればと思いました。お風呂場などのところに、割れるかもしれない危険性のあるものがあると緊張感があると思うので、そういったところに設置できたらいいなと思っています。アクリル製の鏡は、とても軽量で傷もつきにくいメリットとは裏腹に、歪みやすいというデメリットもあります。その点、試行錯誤が必要ですが、枠無しの持ち運べる鏡などのデザインをこれから考えていけたらいいなと思っています。
Question
読者の方々に向けて伝えたいメッセージを教えてください
Answer
私の中の今の話題は、コロナの時代に生きているという部分です。来年になるとワクチン接種を終えた人が増えて、「そんなことあったよね。」と過去のことのようになる可能性もあると思います。
もちろん、そうなるのが平和だと思いますが、現在コロナ禍の真っ只中で急速に変革を誘発されている部分があると感じています。
この「変化」のスピードに取り残される人もいると思うのですが、ポジティブにとらえ、この環境に新しく楽しみなどを見つけていけるといいのではないかと日頃から考えています。
そのため、この記事をご覧になっている読者の方々には、コロナの時代を前向きにとらえて、何か新しいものを考えるチャンスにして欲しいと思います。
実際に私も去年、1人でプロジェクトをしていました。コロナ禍で stay home という言葉をよく聞くようになったので、 1人で「stay happy project」という企画をしていました。この「stay happy project」の内容は 、その頃に行っていた展覧会でユポを使った蝶々のモビールをたくさんぶら下げるインスタレーションがあり、その展示に使用した蝶々が余っていました。その蝶々に stay happy というメッセージをハンコで押し、知り合いに手紙で送るという活動をしました。
なぜそのような活動を行ったかというと、1人で住んでいて家からも出ることができず寂しい思いをしている知り合いがいて、余計なお世話かもしれないのですが、そういった方に少しでも元気になってもらいたいと思い、自由に飛んでいける願いを蝶々に込めて送らせていただきました。それ以来、「コロナの時代ですが stay happy でいきましょうね!」というような活動をやっています。
「皆さんも、コロナの中でもstay happyでいきましょう!」
おわりに
コロナウイルスの影響が続く中、自分なりにどのようなことをしたら良いのか前向きにとらえ常に新しいアイデアを考え続ける伊藤さんの姿は輝いていました。
いつまで続くのか不安な方も多いかと思いますが伊藤さんの様に新しい発見や気づきを楽しみながら生活していって欲しいと思います。
そして、インタビューで伊藤さんは、コロナ対策を考える実証実験「しくみ」プロジェクトについてのお話や2拠点生活で物物交換や自家発電をはじめとした新しいチャレンジについてのお話など多くのアイデアを教えてくれました。
また、インタビューの際にTEDxSapporo登壇後に撮った写真を見せて頂きました。それは、伊藤さんがいとこからいただいた急須とお茶のセットの写真でした。急須とお茶セットはモバイルで持ち運びでき出来るキャンプグッズのようなもので、伊藤さんの写真を見てぜひ身近なデザインを見つけてみたいと思いました。
そして、ステイホームを前向きにとらえコロナ化を一緒に乗り越えていきたいと思います。
AFTER STORYでは、これからもTEDxSapporoに登壇してくださった方の現在を追いかけていきます