コラボレーションによる翻訳:完璧なコトバを見つけるためにTEDxSapporoの翻訳チームはどのように協力しているのか

  • 2015年08月26日

※TEDxSapporo OTP(翻訳)チームがTED Blog で紹介された記事を、TED了承のもと日本語訳して掲載しています。TED Blogオリジナルの記事はこちらをご覧ください。

スノーボーダー、フォークリフトオペレーター、交換留学生など多彩なバックグラウンドを持つTEDxSapporo翻訳チーム。遊び場をテーマにした空間で、翻訳作業をしている。写真:石山彩奈さん提供

スノーボーダー、フォークリフトオペレーター、交換留学生など多彩なバックグラウンドを持つTEDxSapporo翻訳チーム。遊び場をテーマにした空間で、翻訳作業をしている。写真:石山彩奈さん提供

石山彩奈さんはジャーナリストになりたいという夢を持っていました。 2年前、彼女は故郷である北海道を離れ、米国へ留学。そこでジャーナリズムの講義を履修し、学校新聞の記事を執筆しました。英語力に磨きをかけるためです。人々にインタビューをし、そのストーリーを共有するのが大好きな彼女でしたが、22歳の現在、ニュース記事を書くことすべてが好きなわけではない、ということに気がつきました。「ジャーナリストは、ときにはスキャンダル記事なども書かねばなりません。私はマイナスな面を描き出すのが嫌でした。インタビューした人たちについては、善いことを書きたかったのです。『善いことをしたい』と思い、日本に帰ってきました。」と、彼女は言いました。

友人がTEDのオープン翻訳プロジェクト(以下OTP)を紹介してくれたとき、石山さんはやりたかったことを見つけたと感じました。OTPとは、言語や国境を越えてTEDとTEDxトークを翻訳する、世界的に広がるボランティアのネットワークです。ここ数年、幾つかのTEDxイベントでは、地域生まれのトークを英語に翻訳して、世界中にそのアイデアを紹介しようと、ボランティアのOTPチームが結成されてきました。彼女は2014年3月にTEDxSapporoの翻訳チームに加わり、同時にチームのリーダーとなりました。10人で構成されるチームは、まずTEDxSapporoトークを日本語で書き起こし、その後日本語字幕を英語へと翻訳します。さらに、彼らはTEDxSapporoイベントそのもののパンフレットや、Facebookに投稿する日本語の英語翻訳などもしています。

世界には40,000人以上のOTP翻訳者がいます。一人で作業するボランティアもいれば、ペアを組んで翻訳する人もいます。また、夫婦で携わる人もいます。ほとんどの翻訳チームは、主にオンラインでやりとりをしています。しかし、TEDxSapporoのチームは、直接会って作業することを大切にしています。「私は、メンバー同士の強いつながりを作りたいんです。だから、ミーティングのためにチームが顔を合わせるのが好きなんです。」

毎月、チームは、札幌で3時間ほどのミーティングをします。遊び場をテーマにしたそのクリエイティブな作業スペースには、人工芝のカーペットが敷き詰められ、カラフルなボールのプールがあるのです。そこで一緒にTEDxSapporoから生まれたトークの日本語字幕を書き起こし、それを英語に翻訳します。これまでにチームで18本のトークを翻訳しました。

チームメンバーのライフスタイルは様々です。学生、教師、研究者だけでなく、ITの専門家、インドネシアからの留学生、スノーボーダーやフォークリフトオペレータもいます。石山さん曰く、この多様性が、チームが常に活発である理由の一つなのだそうです。チームのリーダーとしてメンバーそれぞれの強みを活かし、各人が望むスキルを伸ばせるよう、気を配ります。

「ひとりひとりが違う強みを持っています。私たちは一緒に作業をすることで、何か新しいことを学ぶことができます。これが私たちをモチベートし、刺激を与えてくれるのです。」

チームはプロジェクトごとにペアを作り、比較的新しいメンバーが最初の翻訳をし、より経験のあるメンバーがレビューをするという具合に作業します。しかし、翻訳しづらい単語やフレーズが出てきたときには、10人がグループで話し合い、より良いコトバを見つけるために、全員が納得するまで、チーム全体で知恵を絞るのです。

「私たちは一つの訳語に1時間以上も議論をすることがあります。疲れることもありますが、幸せです。よりよい翻訳をつくるのに妥協はしたくありませんから。」と、石山さんは教えてくれました。

チームワークと絆を大切にしながら、TEDxSapporo翻訳チームを率いる石山彩奈さん。写真: 石山彩奈さん提供

チームワークと絆を大切にしながら、TEDxSapporo翻訳チームを率いる石山彩奈さん。写真: 石山彩奈さん提供

2014年6月、リーダーとしてまだ駆け出しのころ、チームは手ごわいトークに直面します。それは、チーム独自の翻訳方法を生み出すきっかけとなりました。TEDxSapporo 2014
の “An encouragement of RIKEJO-ish life” (「“理系女子的”生き方のススメ」) です。このタイトルは、日本語の単語「Rikeijoshi(理系女子)」の短縮形である「Rikejo(リケジョ)」を含むものでした。大まかな意味としては「科学的な考え方をする女性」ですが、この言葉には、文字以上の文化的な意味があります。それは知的好奇心であり、偏見のない心であり、男性と女性がそれぞれ持つ特質のバランスが良いことを表しています。

「日本語のタイトルを文字通り翻訳すると、全然意味が通らないことも多いんです。」と石山さんは言います。

その時、チームはあるアイデアにたどりつきました。日本語の「Rikejo」を英語の新たなアクロニムとしたらどうだろう?
ひとつひとつの文字は、
Respectful(互いを尊重し)
Investigative(知りたがりで)
Knowledgeable(知識が豊かで)
Enthusiastic(熱心で)
Joyful(楽しく)
Open(開かれた心の)
を示します。これは直訳では表せない、複雑な事象をうまくとらえています。

チームは、これを説明するビデオを撮影し、(2015年に日本で行われたOTPワークショップで石山さんがプレゼンテーションした動画をご覧ください)、スピーカーである美馬のゆり氏に送り、承諾を得ました。
「美馬さんはとても気に入ってくれました。そして、彼女のTEDxSapporo翻訳チームに対する評価も完全に変わりました。後に、美馬さんは『コンピュータの自動翻訳と全然違うのよ!』とまでおっしゃってくださったのです。」

「RIKEJOは私たちのチームワークの結果です。私たちは妥協しません、そしてあきらめません。」と、誇らしげに語る彼女は、就職も決まり、来年からは東京にある会社で営業企画としての仕事が始まるそうです。

OTPプロジェクトでの経験を糧に、彼女は最初のキャリア・ステップを踏み出すのです。「OTPリーダーを務めたことで、私はずいぶん成長し、協働する上での自分の強みに気がつきました。就職の面接でも、TEDxSapporoのOTPチームを率いていると言ったとき、面接官からは驚きの声がもれました。」

先日、この先のチームがあるべきかたちを見据えて、石山さんは、チームメイトにリーダーシップを取ってもらうべく、リーダーから退きました。「私はこのチームを、続いていくものにしたいんです。」と、彼女は語ってくれました。

いま彼女は、OTPプロジェクト全体についても、同様に感じています。 「私はOTPネットワーク全体が、巨大なチームのように機能するのを見たいのです。コンピューターの中だけでなく、みんなで集まって、顔を合わせて議論をしましょう。」

「私たちはTEDの精神『価値あるアイデアを広める』に基づいて翻訳をしています。全員で力を合わせれば、より多くのアイデアを広めていくことができるんです。」

TEDxSapporo OTP チーム。創造性を発揮し、翻訳が難しい日本語を英語のアクロニムに置き換えて翻訳することも。写真:石山彩奈さん提供

TEDxSapporo OTP チーム。創造性を発揮し、翻訳が難しい日本語を英語のアクロニムに置き換えて翻訳することも。写真:石山彩奈さん提供

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